[洋書書評]事実と向き合えなかった男が選んだ選択 Pet Sematary by Stephan King

ホラー

私が読んだKindle本のデータ、主な邦訳書のデータです。

著者:Stephen King

出版社:Hodder&Stoughton

ページ数:484頁

Kindle位置No.:6579

出版年:2010年(初版1983年)

邦訳:ペット・セマタリー スティーヴン・キング著 深町眞理子訳 文春文庫 1989年

以下、本書未読方に向けて内容の簡単な紹介と気になった点を記載しました。本書を読もうか迷っている方に参考になれば幸いです。

著者について

アメリカを代表するモダンホラー娯楽小説作家です。メイン州出身で大学はメイン大学。幼少時代よりホラー小説に興味を持ち、処女作”キャリー(1974)”でデビュー。”シャイニング(1977)”、ザ・スタンド(1978)、ミザリー(1987)などヒット作多あり、映像化も多くされています。なお、本作も1989年と2020年に映画化されています。

個人的な感想としては、物語の恐ろしさ、おぞましさを前面に押し出す作風ではないと思います。脇役も含めた登場人物の背景を丁寧に書き込み作品にリラリティを出し、登場人物に感情移入しやすくさせることで物語に没頭させるタイプだと思います。中編小説”スタンド・バイ・ミー”のように特に少年の描き方が上手く、ノスタルジアを感じさせる描写に優れていると思います。

はじめに

皆さんは動物を飼ったことはあるでしょうか。動物の寿命は色々違えど、人間よりずっと短いことが多いと思います。私も社会人になる前にインコ鳥を飼っていたことがあるのですが、最後は老衰で安らかな最期を遂げました。ペットを失うのはとても悲しいことです。もし動物が生き返ったらと思って空想してしまうことがありました。また、動物がよみがえるというお話しはホラー小説ではたびたび見たりします。

さて、今回ご紹介するキングの小説は、もし愛するものが生き返ったらというお話しです。そしてこの小説は彼の実体験に基づいています。

キングはメイン州郊外の家で過ごしていたことがあります。家の環境は快適だったらしいのですが、化学工場からのトラックが家の前に道を行き来して危ないことだけが例外でした。動物がよくその道で轢かれてしまったようなのです。そしてその道は動物の共同墓地”Pet Cemetery”に続いていたのです。

キングには娘がいて幼いときにネコを飼っていたのですが家の横の道で死んでいるのがみつかり共同墓地に埋葬したのです。キングには生まれて2歳に満たない息子もいました。ある日、たこをとばしすために道路に向かって走って行ってしまい、キングは息子を安全のため止めたのでした。もし息子の走ったさきにトラックがいたらという恐怖が頭をよぎったといいます。

キングがこれらの実体験を元に描いた小説が”Pet Sematary”です。問題は、ホラー小説の巨匠がこれらの題材を元にどのような小説を描いたのかです。

Pet Semataryとは

Pet Semataryはこの小説でキモとなる場所です。メイン州は先住民族のゆかりの地、大昔に争いのあった場所、曰く付きの場所であり不思議な力が宿っているのです。

‘This place has power, Louis. Not so much here, but … the place we’re going.’

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.135). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

My own guess is that the Micmacs round here had to do it at some point and buried the bones of whoever they ate – one or two or maybe even ten or a dozen – up there in their burying ground.’

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.170). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

Micmacsとはアメリカ先住民族の部族ミクマク族のことです。先住民の埋葬の地が不思議な力を持つという概念は、1787年の”Indian Burying Ground”からみられ、キングの小説が出される前の1977年、Jay Anson著”The Amityville Horror”で出されこれが流行したようです。

Pet SemataryのPetは飼っている動物のペットのことです。Semataryですが、教会に属していない共同墓地という意味のCemeteryの意味と考えられますが、物語にでてくる動物の墓地にはsemataryと記されているのです。

物語の主人公であるルイスが動物の墓地を訪れたシーンから引用してみます。

Written on these in faded black paint, only just legible, were the words PET SEMATARY.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.36). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

そこには白字で”PET SEMATARY”と書かれていたのでした。そして、この”sematary”は”cemeteryのミススペルなのですが、作中の感想が作者の感想であるならば、以下の引用からスペルミスしてあるほうが正式なスペルより面白みがあり印象に残るから(it was funny how that misspelling got into your head and began to seem right)でしょう。

Rachel would call the vet this morning, they would get Church fixed, and that would put this whole nonsense of Pet Semataries (it was funny how that misspelling got into your head and began to seem right) and death-fears behind them.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.65). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

つまり、キングはわざとミススペルの”Pet Semetary”を用いることで味をだすというか、言葉の面白みをだしているのです。

ちなみに、私はタイトルの”Sematary”をみて読み終わるまで”Cemetery”だと思っていました。音が同じなのでその違いを意識していなかったのです。

そして、これは蛇足ですが、Pet CemeteryとPet Semataryは音は似ている、一見おなじものだけれど実際は違うという意味が感じられるのは、私だけでしょうか。

物語の概要

ルイスはこの物語の主人公、医師でクリード家の大黒柱です。妻レイチェルは幼い頃に姉を亡くしています。娘のアイリーンは5歳、息子のゲイジは生後間もないです。絵に描いたような幸せな一家が、メイン州の郊外の家に越してくることから物語は始まります。娘のレイチェルがかわいがるネコのチャーチルに起きた事件をきっかけに、クリード家の日常は崩壊していきます。

気になったところ

狂っていく主人公達の必然性

この小説はプロットはシンプルです。チャーチルの事故がきっかけでルイスの日常がほころんでいきます。しかも、結末に向かってほぼ一直線、避けようがないように感じられます。そしてこの物語で一番怖いのは登場人物達の精神が次第に病んでいくことです。妻レイチェルを例にしてみていきます。

レイチェル

レイチェルは幼いときに2歳年上の姉ゼルダを亡くしている設定です。

Rachel’s sister had died very young, and it had left a scar which Louis had learned early in their marriage not to touch. Her name had been Zelda, and it had been spinal meningitis.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.37). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

死因は髄膜炎による痙攣、窒息死です。そのことがレイチェルに深い心の傷をおとします。幸せなクリード家が物語の最初に描かれるのですが、そこには最初から暗い闇の部分が垣間見えます。

He talked to Rachel for another couple of minutes; the subject of Church was not touched upon.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.157). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

チェーチルに事件が起きますが、ルイスは妻に事実をありのまま伝えることはできませんでした。

夫ルイスと妻レイチェルの関係にひびが入り始めるのです。

そしてさらに物語が進むと、レイチェルの精神も病んでいきます。そこに付随してレイチェルの父親がルイスに対して敵意を向けてきます。

Louis saw then that there were no tears in his father-in-law’s eyes; they were bright and clear with

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.268). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

結局、ルイスは最後まで行動に迷いますが、レイチェルに事実をありのまま相談できません。レイチェルの精神が病んでいるので、レイチェルにさらなる負荷がかかるのは避けなければなりません。

さらにレイチェルの精神が病んで行くにつれ、レイチェルの実父がルイスにさらなる精神的負荷をかけていくのです。

ルイスは独断で悲劇の道を突き進んでいきます。レイチェルがルイスを止める手段は最初の伏線の段階からできないようになっていたのでした。

子供時代のノスタルジア

キングは子供の描写が特に上手い印象です。

‘Are we rich, Daddy?’ ‘No,’ he said, ‘but we’re not going to starve, either.’ ‘Michael Burns at school says all doctors are rich.’

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.43). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

アイリーンは学校で医者はみんな金持ちと言われたとルイスにまくし立てます。実際は学校をでるまでにかかる費用も高く、卒業して時間が経ってなければ資金や資産はないはずです。

日本では特に金銭的なことを子供が言うのはタブー視される傾向にあります。実際、日本人の金融知識は他の先進国に比べて低いというデータもあるようです。ちなみにアメリカは1981年に企業型確定拠出年金を採用し日本より株価への関心が高いようです。

アイリーンがルイスに対して言うさりげない一言にもそれなりの破壊力があります。子供自体にお金のことに対して口を出してしまってご両親に怒られたことはないでしょうか。

また、ルイスが口に出す台詞。親がさりげなく言った一言は、言った本人は忘れてしまっても言われた子供は覚えていたりします。

But a lie would be remembered later and perhaps finally totted up on the report-card all children hand in to themselves on their parents.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.47). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

豆知識

キングの小説は物語とは直接関係のないことも多く語られます。なかなか話が進まないとやきもきしますが、こういった雑談に近い描写はそれはそれで面白いです。

私はネコを飼ったことがないのでが白血病にかかりやすいとは知りませんでした。

cats are very prone to leukemia, you know

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.52). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

ネコ白血病はウイルスが原因でリンパ腫や白血病を起こし死に至る病だそうです。人間の場合だと、ウイルスが原因で起こる西日本やカリブ海に多いヒトT細胞白血病が思い浮かびます。普通の白血病はうつりませんが、ウイリスが原因なのでネコ同士でうつるようです。作中では、ネコのチャーチルが死んだらどうするという発現で引き合いに出されているので、ネコの死因に多いのだと思います。5歳の子供でも知ってる常識なのでしょうか。

あと私は、人とても寝付きやすいのですが、起きるときには苦労します。

It takes the average human seven minutes to go to sleep, but, according to Hand’s Human Physiology, it takes the same average human fifteen to twenty minutes to wake up, as if sleep is a pool from which emerging is more difficult than entering.

King, Stephen. Pet Sematary: King’s #1 bestseller – soon to be a major motion picture (p.90). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

キングの作中では、寝付くのに平均7分、目覚める荷に15分から20分とあります。毎日経験することですが、寝付きや目覚めの時間は自分では直接は測定できずアプリとスマートウォッチなどの自動測定装置を使わないと難しいので、どれくらい時間がかかるかはなかなかはからないと思います。毎日のちょっとしたことでも数字がつくだけで面白く感じられます。

この小説でいまいちなところ

この小説はクリード家の崩壊の過程を楽しむ小説です。そのため、結末が最後はあっけなくおわり尻切れトンボのような印象を持ちます。

言い換えると、エピローグ後の結末を読みたくなるということですが。

そして、ホラー小説なのでハッピーエンドは期待できません。

最期に

キングのホラー小説、Pet Semataryを紹介してきました。

幸せな一家が飼い猫チャーチルの事件をきっかけに精神的に崩壊していくお話しです。

登場人物に感情移入して一気に読みすすることができますが、プロットは単純であり、結末までの過程を楽しむお話しです。

ホラー好きにはお勧めですが、ハッピーエンドを期待する読者は読まない方が良いでしょう

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